大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

札幌地方裁判所 昭和42年(レ)55号 判決

控訴人

千葉忠敬

右訴訟代理人

塩谷千冬

被控訴人

国鉄労働組合

右代表者

神戸世志夫

右訴訟代理人

中島達敬

主文

一、原判決を左のとおり変更する。

二、控訴人は被控訴人に対し金一五、八七〇円およびこれに対する昭和四二年一月一九日から完済まで年五分の割合による金員の支払をせよ。

三、被控訴人のその余の請求を棄却する。

四、訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、控訴の趣旨

1  原判決中控訴人に関する部分を取消す。

2  被控訴人の控訴人に対する請求を棄却する。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二、控訴人の趣旨に対する答弁

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人は負担とする。

第二、当事者の主張

一、請求の原因

1  被控訴人は、日本国有鉄道の職員によつて組織された労働組合(以下、「被控訴人組合」という。)であり、控訴人は、昭和二一年五月以降、被控訴人組合の組合員として被控訴人組合札幌地方本部苗穂工場支部に所属していたものである。

2  組合員は、被控訴人組合規約(以下、「組合規約」という。)二七条三、四号、四二条二、三項の定めるところにより、組合の経費にあてるため、組合大会または中央委員会において決定された通常あるいは臨時の組合費を納入する義務を負うものである。

3  ところが、控訴人は、組合大会において決定された通常組合費について、昭和三七年九月から昭和三九年一一月までの間に、別紙延滞組合費欄記載のとおり合計一三、八九〇円の納入を怠つている。

4  次に、被控訴人組合は、その組合大会において、左記のとおり臨時組合費を徴収する旨、各決定をなしてこれを指令した。

(一) 春期闘争資金として

(1) 昭和三七年 四月 二五〇円

(2) 昭和三七年一一月 二〇〇円

(3) 昭和三九年 九月 一、五〇〇円

(二) 炭労全鉱闘争および水俣闘争の支援資金として

昭和三七年一一月 三五円

(三) 米軍基地設置反対闘争の支援資金として

昭和三七年一〇月 三〇円

(四) 工作資金として

昭和三八年一二月 三〇円

ところが、控訴人は、右各臨時組合費の納入を怠つている。

5  よつて被控訴人は、控訴人に対し、以上合計金一五、九三五円およびこれに対する本件訴状が控訴人に送達された日の翌日である昭和四二年一月一九日から完済に至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。〈後略〉

理由

一、請求原因第1ないし3項および第4項の(一)ないし(三)の事実はいずれも当事者間に争いがなく、第4項の(四)の事実については控訴人において明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。

二、控訴人は、昭和三八年六月ころ、被控訴人組合を脱退した旨主張するので判断するに、この点について、これに符合する〈証拠〉は、いずれもにわかに措信し難いし、他には右主張事実を認めるに足る証拠がなく、むしろ、〈証拠〉によれば、控訴人は昭和三九年一一月一二日、書面による届出をもつて被控訴人組合を脱退したにすぎないものと認められる(仮に、控訴人においてその主張の日時に口頭による脱退の意思表示をしたとしても、〈証拠〉によれば、組合員が組合を脱退しようとする場合には、書面をもつて届出るべき旨組合規約で定められていることが認められ、かかる手続形式に関する制限規定は組合員の脱退の自由に対する実質的障害をなすものとはいえないから、これを無効と解することはできず、従つて、この手続をふまないでなされた脱退の意思表示はその効力を生じないといわざるを得ない。)従つて、この点に関する控訴人の主張は理由がない。

三、次に、被控訴人主張の各臨時組合費の納入義務について判断する。

控訴人は、春期闘争資金について、これは時間内職場大会等違法な闘争を目的とするものであるから納入すべき義務がない旨主張するところ、日本国有鉄道職員局および日本国有鉄道札幌鉄道管理局に対する各調査嘱託の結果による、昭和三七年三月の春闘第一波闘争、年度末手当闘争の一方法として勤務時間内にくい込む職場集会などが一部において実施されたことがうかがわれるが、これをもつて直ちに本件臨時組合費の徴収目的となつた春期闘争行為が全体的にみて違法であつたとすることはできず、この点に関する控訴人の主張は理由がない。

次に、炭労全鉱闘争、水俣闘争の支援資金および米軍基地設置反対闘争の支援資金についてみるに、労働組合がその組合規約に基づき組合大会において特定の活動目的に必要な資金として組合員より臨時組合費を徴収する旨の決定がなされた場合、当該臨時組合費の使途、性質のいかんを問わず、常に組合員に対して強制的にこれを賦課し、裁判上これを請求しうるということはできず、組合規約所定の機関の決定によつて組合員を法律上拘束できる臨時組合費の内容には自ら限界があるのであつて、その徴収目的が、対使用者との関係において、労働条件の維持改善その他経済的地位の向上をはかるために、団体交渉その他の団体行動をするといつた労働組合の基本的な目的から離隔した活動のために必要な資金であるような場合には、その納入を肯んじない組合員からこれを強制的に徴収することはできないというべきである。

被控訴人の請求する各臨時組合費のうち春期闘争資金と工作資金については、いずれも労働組合の右基本的目的に合致する活動に資するためのものといえるのに対し、炭労全鉱闘争、水俣闘争の支援資金は、被控訴人組合以外の組合の闘争資金あるいは社会的な運動のための資金である点で、また、米軍基地設置反対闘争の支援資金は、いわゆる政治運動のための資金である点で、いずれも前記労働組合の基本的目的から離隔した活動に資するためのものと解されるから、これらの資金を臨時徴収する旨決議した被控訴人組合の決議に基づいてその納入を怠つている控訴人から強制的にこれを徴収することはできない。

四、以上のとおりであるから、控訴人は組合員として、被控訴人組合に対し未納組合費の合計金一五、八七〇円およびこれに対する本件訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和四二年一月一九日から右完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。そうすると、被控訴人の本訴請求は控訴人に対し右の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないからこれを棄却すべきであり、被控訴人の請求を全部認容した原判決を右の限度で変更することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、九二条但書を適用して、主文のとおり判決する。

(惣脇春雄 村上敬 佐藤久夫)

〈別紙省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例